第5回N-Pネットワーク研究会

2015年12月15日(火) @ ヨコハマグランドインターコンチネンタルホテル

「軸索ガイダンス分子の働きと認知症との関連について」

横浜市立大学医学部分子薬理神経生物学教室 助教 野本宗孝

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我々人間の脳は日々高度な思考活動を行っているが、これは神経細胞が複雑なネットワークを構築して情報を伝達することで成り立っている。
神経細胞の軸索がどこに投射されてネットワークを構築するかということに対する疑問は、19世紀末にスペインの神経解剖学者ラモニ・カハールによって提唱された『神経向性説(ニューロトロピズム)』にその端を発する。カハールは胎児の神経系の発達を研究しているとき、神経の細胞体から伸びた軸索が途中に多くの障害があるにもかかわらず、見掛け上予め定められた目標に向かって進むのは何故かについて考えた。その結果、カハールは結合組織から作られる特殊な物質が軸索の成長と目標への方向付けをすると考え、この物質を神経向性物質と呼んだのである。
カハールのこの疑問に神経科学が答えたのは、実に90年以上の歳月を経て、1980年代に入ってからであった。軸索を導くタンパク質、すなわち軸索ガイダンス分子としてネトリンという物質が発見されて以降、現在もこの分野の研究が精力的に行われている。我々横浜市大薬理学教室でも神経回路形成に関与する分子の解明に取り組んでおり、特にCollapin Response Mediator Protein(CRMP:クリンプ)という分子に着目している。
CRMPは軸索をはねつける作用をもつ反発性軸索ガイダンス分子であるセマフォリン3A(Sema3A)の情報伝達を担う分子として1995年に同定された細胞内タンパク質である。CRMPには5つのサブタイプがあり、なかでも我々はCRMP2に注目している。CRMP2は高度にリン酸化されたタンパク質として脳内で広範に発現している。細胞レベルで見るとSema3Aにより活性化された2つのキナーゼ(Cdk5とGSK3β)により、CRMP2が2段階のリン酸化修飾を受けることが知られている。CRMP2がリン酸化を受けると神経細胞内の微小管重合が抑制され、その結果軸索先端に位置する成長円錐の細胞骨格が崩壊し、神経細胞の退縮を引き起こす。
我々のこれまでの取り組みから、CRMPのリン酸化修飾異常あるいはCRMP自体の発現異常がアルツハイマー病や統合失調症の発症原因と深くかかわっていることが明らかにされつつあり、疾患発症の早期診断マーカーになる可能性が示唆された。
講演では軸索ガイダンス分子がはたす役割とアルツハイマー型認知症との関連を中心に横浜市大薬理学教室の研究について報告する。

「アルツハイマー型認知症の診断、治療」

洛和会音羽リハビリテーション病院 神経内科 部長 木原 武士

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認知症の人は、まだまだ出来ることがある・働きたい・役に立ちたいと感じておられる方も多い。こうした人を早期発見し、認知機能・現在の生活を維持するように治療を行うことが求められている。医療へのアクセスが制限される入口問題を解決するために、初期集中支援チームの活動などが期待されている。アルツハイマー型認知症(AD)では、エピソード記憶の障害が初期より目立つことが多く、手続き記憶は比較的保たれているだけでなく、新規に獲得することも可能な場合がある。また情動記憶も比較的保たれている。
こうした残存機能を生かしたケアを行いながら薬物治療を加えていくことが、認知症の人を診療していく上では重要ではないかと考えている。治療薬については、新薬も含め治るくすりはまだない。アセチルコリンエステラーゼ阻害薬やメマンチンは、症状の進行抑制効果とともに、一部症状改善やBPSDに対して効果を示すこともある。注意力・覚醒度があがるなど短期的に発現する効果だけで薬効を判定することなく、エビデンスとして認知症症状の進行抑制を考慮した治療を行う必要がある。

【世話人会(敬称略、五十音順)】

代表世話人
・内門 大丈
・馬場 康彦
世話人
・井上 祥
・水間 敦士

【顧問(敬称略、五十音順)】

・小阪 憲司(横浜市立大学 名誉教授)
・繁田 雅弘(首都大学東京 健康福祉学部 作業療法学科 教授)
・瀧澤 俊也(東海大学医学部 内科学系神経内科学 主任教授)
・平安 良雄(横浜市立大学 精神医学 主任教授)
・水間 正澄(昭和大学医学部 リハビリテーション医学講座 主任教授)
・村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター 神経内科 部長)

【N-P ネットワーク研究会 2016summer 共催会社】

・武田薬品工業株式会社