第25回N-Pネットワーク研究会
2020年12月8日(火) 形式:リモート開催 使用ソフトウェアWeb-wx
(配信会場:ホテルプラム2F サロンド・ド・フルール)
2020年12月8日(火) 形式:リモート開催 使用ソフトウェアWeb-wx
(配信会場:ホテルプラム2F サロンド・ド・フルール)
医療法人三精会・汐入メンタルクリニック
精神科治療のゴールには、(1)自殺でなくなる人を減らすこと、(2)その人らしく生きることを支援することの2つの面があります。この二つはコインの裏表の関係です。(2)は、昨今よく言われている「リカバリー」を目指すことです。うつ病治療においても、このリカバリーを目指すことになります。私たち臨床家は、症状の緩和、社会機能の回復に向けて、生物学的および心理社会的な治療の実践が求められています。そこで、今回の講演では、少しでもリカバリーに近づけるための診察場面での工夫と薬物療法のヒントについて、お話をいたします。
診察場面での工夫として、1つ目として、背景因子を確認することです。生活歴、家族歴、性格、発達など、初診時には大抵聞き取っていること内容です。回復が停滞しているときなどにも診療録を見直してよいことです。最近は発達障害の合併などがよく話題になります。2つ目としては予後に関連する因子を確認します。バイオマーカー、随伴症状の有無など、うつ病の予後予測に関する研究は枚挙にいとまがないほどです。3つ目は、小精神療法・生活指導を生かすこと。古典ととってもいい笠原嘉先生の小精神療法ですが、現代でも生きています。運動療法なども取り入れてよいことです。4つ目は評価尺度やチームケア(Measurement-based care:MBC)を生かすことです。MBCのほうが通常の治療に比べて、寛解率、寛解への早さのいずれも優位に効果があるとされています(Guo T. et al. Am J Psychiatry 172;1004-1013, 2015)。MBCをそのまま日常臨床で実践できないにしても、医師、コメディカルだけではなく、受付、院外調剤の薬剤師、家族などもチームフェローとして考えることで、マインドとしては実践できると考えます。
次に薬物療法について考えます。うつ病の社会機能の回復が重要なのですが、その中で残遺症状が問題になっています。ここでは復職時とPresenteeismを取り上げます。前者においては、本人・主治医が考える復職可能な水準と会社・企業が考える水準にズレが生じることがしばしばあります。Presenteeismは、就業はしているが医学的要因で生産性の低下が生じていることです。この2つの場面で注目されているが、集中困難、記憶力低下、計画困難など認知機能症状です。医療提供者側はなかなか気づきにくいこと、効果が期待できる薬剤などがなかったことなどもあり、重要性はわかっていても治療的な視点で語られることは少なかったと思います。ユニークな薬理学的機序をもつボルキオキセチンは臨床試験、メタアナリシスの解析結果などから、直接的に認知機能の改善の効果があると期待されています(Mahableshwarkar AR, et al. Neuropsychopharmacology,40;2025–2037,2015, Rosenblat JD, et al. Int J Neuropsychopharmacol. 9(2):pyv082, 2015, doi: 10.1093/ijnp/pyv082)。
金沢大学大学院脳老化・神経病態学(脳神経内科学)
Alzheimer病(AD)に類似する症候や神経変性を示すがアミロイド陰性の病態はsuspected non-AD pathophysiology (SNAP)と称され、バイオマーカーによって定義される。Jackら(2012)は認知機能正常高齢者の23%がアミロイド陰性にも関わらず神経変性を示し、ADの進展過程とは異なる病態が疑われることからSNAPと呼称した。さらに、ADによる軽度認知障害(MCI)あるいは認知症と臨床的に診断される例の2割前後がSNAPに該当することが報告された。SNAPの診断はバイオマーカーの精度や解釈によって左右されるが、病理学的にもみてもアミロイドを認めないpathology-based SNAPの背景には、 (1) 非AD型神経変性、(2) 脳血管障害、あるいは (3) (1)と(2)の混合がある。主な神経変性病理として原発性年齢関連タウオパチー(primary age-related tauopathy: PART)、嗜銀顆粒病(argyrophilic grain disease: AGD)、”辺縁系優位年齢関連TDP-43脳症(limbic predominant age-related TDP-43 encephalopathy: LATE)”が報告されている。
認知症高齢者の中には、ADと同様に海馬領域を中心に多数の神経原線維変化(neurofibrillary tangles: NFT)を有するが、ADとは異なり老人斑(アミロイドβ蛋白沈着)をほとんど欠く一群が存在する。1996年、演者らはこうした特徴を有する老年期認知症例を、臨床、病理、アポリポ蛋白E遺伝子型等について同年代のADと比較し、それがADとは異なる新しい疾患単位であることを示し、NFT型老年期認知症(senile dementia of the NFT type: SD-NFT)という名称を提唱した。SD-NFTは高齢者の認知症の約5%を占めた。その後、本症はtangle-only dementia、神経原線維変化優位型認知症など様々な名称で記述された。2014年、演者を含む国際コンソーシアムは加齢に伴いNFTが内側側頭葉を中心に分布し、老人斑はないか、あるいは少数に留まる病理を広くPARTと呼ぶことを提案した。PARTは、年齢に関連して内側側頭葉に出現する極軽微なNFTの出現からSD-NFTでみられる多量のNFT病理までを包含する病理用語であり、「PART病理による認知症」がSD-NFTに該当する。
AGDは主に内側側頭葉領域における嗜銀顆粒(argyrophilic grains: AG)の蓄積を特徴とする4リピートタウオパチーである。AGDが主な原因と考えられる認知症は、全認知症患者の5-10%前後と推定され、高齢になるほど頻度を増す。他の神経変性疾患との共存がしばしばみられる。AGDは記憶障害を中心とする認知機能障害、易怒性などの性格変化・行動異常などの症状を示す。CT/MRIでは内側側頭葉萎縮がみられるが、萎縮が前方に優位で左右非対称の所見がしばしばみられ診断の一助となる。
共同代表世話人
・内門 大丈(湘南いなほクリニック)
・馬場 康彦(昭和大学藤が丘病院 脳神経内科)
副代表世話人
・井上 祥 (株式会社メディカルノート)
・水間 敦士(東海大学医学部内科学系神経内科学)
世話人
・笠貫 浩史(聖マリアンナ医科大学)
・川口 千佳子(せやクリニック)
・杉谷 雅人(総合相模更生病院 脳神経外科)
・野本 宗孝(横浜市立大学附属市民総合医療センター 精神医療センター)
世話人兼・会計監査
・加藤 博明(株式会社メドベース)
・竹中 一真(株式会社メドベース)
顧問
・小阪 憲司(横浜市立大学 名誉教授)
・繁田 雅弘(東京慈恵会医科大学 精神医学講座 主任教授)
・瀧澤 俊也(東海大学医学部 内科学系神経内科学 主任教授)
・水間 正澄(昭和大学 名誉教授)
・村山 繁雄(大阪大学非常勤特任教授)
【第25回N-Pネットワーク共催会社】
・ヤンセンファーマ株式会社