第2回N-Pネットワーク研究会
22015年3月13日(金) @ ヨコハマグランドインターコンチネンタル
22015年3月13日(金) @ ヨコハマグランドインターコンチネンタル
認知症の経過に起こる行動・心理症状(Behavioral and Psychological Symptom of Dementia:BPSD) は患者本人や介護者に苦痛をもたらし、自宅や介護施設における介護破綻の原因となる。BPSDの鑑別にはせん妄が重要であるが、せん妄状態が遷延している場合は、BPSDとの鑑別が困難なことも多い。今回、自験例を提示し診断と対応の難しさについてを述べる。
症例は85歳女性で軽費老人ホームに入所中。2年前よりアルツハイマー型認知症の診断で通院治療中であったが、大腿ヘルニア陥頓、腸閉塞の術後より徘徊が出現しBPSDの診断を受け、当院を紹介受診となった。初診時には不眠、多動、注意の障害、幻視の症状があり、せん妄が遷延しているものと考えられ、施設での対応困難であるため入院治療を行った。リスペリドンの投与を行ったがせん妄状態は改善が見られず、もともと内服をしていたアマンタジンによる薬剤性せん妄を考え、減量中止後を行った。アマンタジンの中止後はせん妄は消退し、入院後4か月でグループホームに退院となった。
せん妄の成立機序は多要因性であり、Lipowskiによると準備因子(predisposing factors)、誘発因子(facilitating factors)、直接因子(precipitating factors)に分けられ、これらの要素が重なりあってせん妄を発症させる。本症例ではアマンタジンが直接因子と考えられ、アルツハイマー型認知症と慢性硬膜下水腫の準備因子がある患者が、外科的手術を受けたことを誘発因子としてせん妄を発症したものと診断した。
今回の検討のテーマとして、本症例を通じてBPSDやせん妄が生じた際の連携について検討をしたい。また実際の臨床場面において、BPSDやせん妄に対する対応と治療が行われているのかご意見をいただきたい。(
高齢化社会の急速な進行とともに、認知症患者数が急増しており、本邦で約462
万人を超えるものと報告されている。認知症をきたす代表的疾患はアルツハイマー病(Alzheimer’s disease: AD)であるが、ビタミンB1、B12、葉酸といったビタミン欠乏症の認知機能におよぼす影響は決して小さくないことが再認識されている。特に葉酸・ビタミンB12は、ホモシステイン(Hcy)からメチオニンに変換する際の補酵素として働くため、これらのビタミン欠乏は高Hcy血症をきたす。高Hcy血症は、ADを含む認知症の独立した危険因子であることが注目されている(Seshadri et al., 2002) 。
さて、ADの代表的病理所見の一つは高度にリン酸化したタウ蛋白から構成される神経原線維変化である。われわれは、TetOff inductionにより野生型タウ蛋白(4R0N)を発現する神経系細胞を用い、Hcyのタウ代謝に及ぼす影響を検討した。Hcyを培養液中に加えることにより、特にカスパーゼにより切断されたタウが増加した。またサルコシル不溶性画分におけるタウが増加しており、タウ重合の促進が示唆された。
さらに、臨床的検討として葉酸、ビタミンB12欠乏患者に対する補充療法の臨床的効果を神経心理学検査、ならびに血中Hcy値の変動により解析した結果、葉酸欠乏患者、およびビタミンB12欠乏患者では、認知機能の低下のみならず、血中Hcy値の高値を示していた。ビタミン補充療法を行ったところ、認知機能の改善のみならず、血中のHcy値も正常化した。本研究の結果から、葉酸・ビタミンB12欠乏は、Hcy値の上昇に伴うタウ蛋白の重合促進をきたし、ADの病態を促進する機構が存在することが推察された。さらに、ビタミン補充療法により認知機能低下の進行を抑制しうる可能性も示唆された。
代表世話人
・内門 大丈
・馬場 康彦
世話人
・井上 祥
・水間 敦士
・小阪 憲司(横浜市立大学 名誉教授)
・繁田 雅弘(首都大学東京 健康福祉学部 作業療法学科 教授)
・瀧澤 俊也(東海大学医学部 内科学系神経内科学 主任教授)
・平安 良雄(横浜市立大学 精神医学 主任教授)
・水間 正澄(昭和大学医学部 リハビリテーション医学講座 主任教授)
・村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター 神経内科 部長)
・第一三共株式会社