第17回N-Pネットワーク研究会
2018年12月11日(火)@ ホテルモントレ横浜
2018年12月11日(火)@ ホテルモントレ横浜
2016年7月から2018年6月までカリフォルニア州サンフランシスコにあるUniversity of California, San Francisco (UCSF)のVeterans Affairs Medical CenterにてDepartment of NeurologyのYenari A. Midori教授のもとでResearch Fellowとして留学をさせていただきました。
主な研究テーマとして脳梗塞・外傷性脳損傷(TBI)モデルマウスを用いた脳虚血及び外傷後のミクログリア活性化に際した炎症惹起のメカニズム抑制と脳保護に関したプロジェクトに携わり、その中でストア作動性カルシウム流入に関するカルシウムチャネル(CRACチャネル)に注目した、CRACチャネル阻害薬を用いた抗炎症・脳保護効果の検討を行ないました。また、Yenariラボでは他のラボとの共同研究も積極的に行われています。その中の一つであるカルシウム感受性受容体(CaSR)に注目した、アルツハイマー病モデルマウスに対するCaSR阻害薬を用いたプロジェクトをEndocrine Research UnitのChang Wenhan教授のメンバーと共同研究を進めさせていただきましたので本会で報告致します。
CaSRは海馬、大脳新皮質、視床下部を中心にその発現が確認されています。アルツハイマー病に関する研究ではアミロイドβがニューロンやアストロサイト上のCaSR活性化に関与しており、その結果Aβ分泌が促進されることが知られております。我々のグループではCaSRを治療標的とした研究を行ってきており、これまでに脳梗塞およびTBIモデルマウスを用いた検討にてCaSR阻害薬が神経保護作用を有することを報告してきました。今回、CaSRがアルツハイマー病の病因や病態進行に重要な役割を果たしているとの仮説のもとで新たな治療標的としてCaSR阻害薬を用いた検討を行いました。今回行った検討ではアルツハイマー病モデルマウス(5XFAD)において月齢3ヶ月から6ヶ月の観察期間で行動分析における認知機能の増悪および海馬における神経細胞の減少が有意に認められましたが(p<0.01)、CaSR阻害薬治療群およびCaSRノックアウトマウスでは認知機能および神経細胞の保持が認められました(p<0.01)。さらに免疫染色においてもこれらのグループではアミロイド沈着の有意な減少が確認されました(p<0.05)。これらの結果より、CaSR阻害がアルツハイマー病における病態進行の抑制に有効である可能性が示唆されました。
最後になりますがこのような貴重な機会を作っていただき、ご指導いただきました先生方には大変感謝しております。この経験を活かして、今後の国内での自身のプロジェクトを進めていき、その成果を報告していけるように努めて参りたいと思います。
超高齢社会の進展にともない、国家戦略として「地域包括ケアシステム」の推進が提唱され、各地で様々な取り組みが試行錯誤されています。地域のなかで高齢者を支えるネットワークをいかに構築するか、公助の限界が見えるなか、地域コミュニティ内の支えあいや民間事業者のサービスなどの私的領域での支援活動の強化、さらには公助と共助の連携が求められています。厚生労働省は、地域包括ケアシステムのモデル図として、公・民の各機関が連携する姿を描いていますが、そこには描かれていないものの、大きな潜在力を持つものとして、今回、寺院・僧侶、いわゆる伝統仏教というものを考えてみたいと思います。
なぜ、伝統仏教が潜在力を持っていると考えるのかと言いますと、思想・儀礼・臨床の各段階で老・病・死の問題を扱ってきた長い伝統があり、地域コミュニティのなかで物理的空間、社会関係資本の両面で存在し続けてきた歴史があるからです。
私たちの研究チームは、挑戦的萌芽研究「多死社会における仏教者の社会的責任」(課題番号:15K12814、2015~2017年度)において、高齢者福祉施設・医療機関のケア従事者323名にアンケート調査をおこない、入所者やその家族に向けた僧侶による傾聴・法話、寺院散策などのニーズを調べたところ、すべての項目で希望する者の数が過半数にのぼりました。また、同アンケート結果からは、ケア従事者のバーンアウト保護因子として信仰が機能する可能性も示唆され、信仰がケア従事者を内面から支えているとも言えます。
また、現在、挑戦的研究「超高齢・多死社会への新しいケア・アプローチ:地域包括ケアにおけるFBOの役割」(課題番号:18H05317、2018~2022年度)に着手したところで、上述の介護従事者への調査のほかに、寺院を利用した介護者カフェやデイサービスの可能性の探索、月参り(菩提寺の僧侶が毎月檀信徒宅を訪問する宗教慣習)が持つ高齢者の見守り機能の把握など、多角的に調査を進めています。
今回はその一端をご報告し、全国に7万5千ある寺院、30万人にのぼる僧侶が地域包括ケアの一員として参画し、より良い超高齢社会にしていくための道筋を医療者の皆さんと考えていければ幸いです。
NP ネットワーク研究会 世話人 (敬称略 50 音順) 共同代表世話人
・内門 大丈 (湘南いなほクリニック)
・馬場 康彦 (昭和大学藤が丘病院 脳神経内科)
副代表世話人
・井上 祥 (株式会社メディカルノート)
・水間 敦士 (東海大学医学部内科学系神経内科学)
世話人
・川口 千佳子(せやクリニック)
・杉谷 雅人 (相模原協同病院 総合内科)
・野本 宗孝 (横浜市立大学附属市民総合医療センター 精神医療センター)
世話人兼・会計監査
・加藤 博明 (株式会社メドベース)
・竹中 一真 (株式会社メドベース)
・小阪 憲司 (横浜市立大学 名誉教授)
・繁田 雅弘 (東京慈恵会医科大学 精神医学講座 主任教授)
・瀧澤 俊也 (東海大学医学部 内科学系神経内科学 主任教授)
・平安 良雄 (横浜市立大学 名誉教授)
・水間 正澄 (昭和大学 名誉教授)
・村山 繁雄 (東京都健康長寿医療センター 神経内科 部長)
・ノバルティスファーマ(株)