第12回N-Pネットワーク研究会
2017年9月12日(火) @ ホテルモントレ横浜
2017年9月12日(火) @ ホテルモントレ横浜
2016年4月から2017年3月までスタンフォード大学医学部精神医学、Sleep and Circadian Neurobiology laboratoryの、西野精治先生のラボに留学をさせていただきました。西野先生のラ ボでは、毎週のカンファで睡眠に関する知識を学ぶことができ、また、留学期間を通して、西野 先生には、研究面、生活面で、多大なサポートをいただきました。 留学の前半は、同部門の Emmanuel Mignot 教授のラボで、ナルコレプシーの原因抗原探索に関 する基礎実験を行うこととなりました。ナルコレプシーの病態として、その発症に免疫学的な機 序が想定されており、ナルコレプシーの原因抗原として、インフルエンザウイルス由来、または インフルエンザワクチンに由来する抗原が想定されています。私は、原因抗原の測定系開発のた めに、抗原提示細胞に、 HLA-DM といわれる分子を発現させることで、抗原提示の効率をあげ る細胞系の確立を行いました。 留学の後半は、小児精神科部門の Manpreet Singh 博士のラボで、アメリカ小児を対象とした 8000 例のデータベースを用いた研究を行いました。このデータベースは、Philadelphia Neurocognitive cohort といわれており、遺伝子、精神症状、認知機能、頭部 MRI 検査の結果を ふくむ大変貴重なデータベースです。私は小児の睡眠障害に注目し、患者背景や頭部 MRI 検査 結果や遺伝子との関連を調査しました。ポスドクである Robert Owen Phillips 博士から頭部MRI 解析方法を教わりました。また、Stanford 大学医学部精神医学部門の Joachim Hallmayer 教授の 指導の下、ゲノムワイド関連解析(GWAS)の手技を教わりました。 このように遺伝子や細胞を扱った基礎実験から、臨床症状の解析、頭部MRI解析、多変量解析と いった臨床研究まで、幅広く経験を積むことができました。なかでもビッグデータの解析に際し プログラミングの知識・知見を広げることができたことは、今後の研究において、非常に有用で はないかと考えています。このような貴重な機会を得ることができたのも、日本での研究推進の 上でご指導いただいた諸先生方や、臨床研究で協力していただいた多くの先生方のお陰と考えて います。また、アメリカでのたくさんお方々との出会いが何より、素晴らしかったと思っていま す。今後は、この経験を生かして、日本発の研究を推進していきたいと考えています。
様々な神経変性疾患に関与するタウ蛋白のうち,C末側のリピート領域が4回繰り返される アイソフォーム(4リピートタウ)が選択的に異常蓄積する疾患があり,4リピートタウオパ チーと総称される.精神疾患の臨床像を呈しやすい代表的な変性疾患にはレビー小体病,嗜 銀顆粒病(argyrophilic grain disease: AGD),皮質基底核変性症(corticobasal degeneration: CBD),進行性核上性麻痺(progressive supranuclear palsy: PSP)があるが ,このうちAGD,CBD,PSPは4リピートタウオパチーである.AGDは病変が高度化すると 辺縁系型認知症(limbic dementia)を呈しやすい.我々は最近40歳以上で何らかの精神疾患 を発症し,少なくとも初期から中期まで認知症を欠いていた45剖検例を抽出し,死亡時年齢 をマッチさせた精神神経学的健常対照71例との病理学的比較を行った.精神病性障害23例が AGD,レビー小体病(LBD),又はCBDを有するリスクは健常対照群と比べて有意に高かっ た(odds比4.44, 95 % CI 1.62–12.1).AGDのSaito stageも対照群より有意に高かったが Saito stageはI-IIの軽度から中等度に留まり,臨床的に認知症を欠いた事と整合していた .65歳以上発症の精神病性障害例ではAGDを36.4%,LBDを36.4%の患者で認め,対照群に 比してAGDの頻度は有意に高頻度であった.以上の結果は高齢発症の精神病性障害には軽度 から中等度のAGDが関係している可能性を示唆していると考えられた.双極性障害も若年で 発症する事が多く,平均発症年齢の報告は20歳以下が多い.しかし発症年齢が40歳以上の高 齢発症双極性障害にはAGDが関与している可能性がある.CBDとPSPは病変分布が似るた め臨床像スペクトラムも類似し,共通の臨床像は,皮質基底核症候群,Richardson症候群, 前頭側頭型認知症,進行性非流暢性失語,発語失行等である.CBD剖検例で皮質基底核症候 群を呈する例は17-48%に過ぎず,PSP剖検例でRichardson症候群を呈する例も約60%に留 まる.運動障害の左右差を認めないsymmetric CBDがあり,他人の手徴候や失行を認めない 特徴がある.中脳萎縮は生前Richardson症候群を呈していた事には関係するが,PSP病理を 有するか否かには関係するわけではない.精神科を受診した病理学的CBD症例の臨床像は主 にFTDであり,稀に幻覚妄想状態がある.行動異常や精神症状初発のCBDでは黒質とルイ体 の変性が運動障害初発のCBDに比べて有意に軽く,末期まで歩行可能であるなど経過を通じ て運動障害が軽い傾向がある.PSPとCBDは精神症状や行動変化で初発する症例がしばしばある 事が最近特に注目されており,今後精神科医はその早期診断を行う力が求められるようになると思 われる。
代表世話人
・内門 大丈
・馬場 康彦
副代表世話人
・井上 祥
・水間 敦士
・小阪 憲司(横浜市立大学 名誉教授)
・繁田 雅弘(東京慈恵会医科大学 精神医学講座 主任教授)
・瀧澤 俊也(東海大学医学部 内科学系神経内科学 主任教授)
・平安 良雄(横浜市立大学 精神医学教室 主任教授)
・水間 正澄(昭和大学 名誉教授)
・村山 繁雄(東京都健康長寿医療センター 神経内科 部長)
・ノバルティスファーマ(株)